個々の人がワクチン接種を受けるかどうかは、疾病にかかるリスクとワクチン接種の合併症のリスクでどちらが得かで決めることになります。疾患の重症度が高くて、ワクチン接種のリスクが低ければ、接種をしたほうが好ましい。
大きな集団での損得を考える分野を、公衆衛生といいます。感染症(病原体)そのものが無くなれば、その感染症にかかる個人はなくなります。また感染症の発生率が下がれば、その疾病に感染する確率が下がります。
その大規模な集団でワクチン接種が有効であったかどうかを検討した論文がJAMA.2007Nov 14;298(18):2155-63に発表されました。抄録からご紹介します。JAMAはUSAの医学雑誌です。
比較検証された疾患は、ワクチンで予防可能な13疾患です。ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、はしか、流行性耳下腺炎、風疹、侵襲性インフルエンザ桿菌b型(Hib)、急性B型肝炎、A型肝炎、水痘、肺炎球菌性肺炎そして天然痘です。
これらの罹患率、死亡率について最近のデータ(2004年、2006年)と、代表的な過去の臨床比較データと比較して検証しています。結果は1980年にワクチンによる予防を薦める以前と比較しています。
1、ジフテリア、風疹、百日咳と破傷風では罹患数では92%、死亡率では99%以上の減少を認めた。
2、地域流行性のポリオ、はしか、風疹の流行は米国から排除された。
3、天然痘に至っては世界中から絶滅させた。
4、その他の疾患では1980年来80%以上の減少を認めている。
5、そして、肺炎球菌性肺炎では34%の罹患者減少、25%の死亡率減少を認めた。
この様にワクチン接種は病気を未然に防ぐ最も強力な手段である事が検証されています。
今年は例年より早くインフルエンザ流行期が始まりましたが、ワクチン接種を早く済ませておいた方が自分を守る最善の手段です。 特に受験生、高齢者、慢性呼吸器疾患、糖尿病、慢性腎疾患や慢性肝炎の方、そして免疫不全の可能性ある人では1回のワクチンより、2回接種がより予防効果が確実と思います。
海外旅行予定者も、飛行機内では呼吸器感染しやすいため、早めの対策をお勧めします。 旅行地域によってはインフルエンザ以外に、肝炎、日本脳炎、破傷風のワクチンも考慮した方が良いでしょう。
はしか(麻疹)はWHOの絶滅目標になっています。日本は残念ながら、はしかの輸出大国です。国立感染症研究所は、現在はしかの流行は治まりつつあるものの、予防接種が1回接種のままである人が多いことから、抗体をお持ちでない人は接種をするようにと勧めています。