鍼治療をしている臨床医は、変形性膝関節症に鍼治療が効く事を実感しています。残念ながら、日本からの報告は少ないのですが、欧米から大規模臨床試験がいくつか報告されてきています。
Annals of Internal Medicineに2006年にHanns-Peter Scharfらによる「Acupuncture and Knee Osteoarthritis; A Three-Armed Randomized Trial」 という報告が在ります。
この研究では1007人の変形性膝関節症の患者さんを対象に行っています。比較の対象は次の3群です。
(1)理学療法に、必要に応じ鎮痛消炎剤を投与し、さらに鍼治療を施した群、
(2)標準的な鍼治療とは異なるコントロール鍼施術群、
(3)鍼をしないで単なるドクターの訪問群
結果は、鍼治療群で53%、コントロール鍼治療群で51%、そしてドクター訪問では29%でWOMACの治療効果判定スケールでの改善を得ています。
もう一つは、Eric Manheimer らがまとめた「Meta-analysis: Acupuncture for Osteoarthritis of the Knee」です。この論文は、2007年1月まで報告された信頼に足る厳選された九つの論文を検証したものです。
結果は以下の通り。
鍼治療を加えた群とコントロール鍼治療を加えた群では、治療待機群と鍼を行わない通常治療群と比較して痛みと機能改善については優位に改善効果を認めた。 しかし、鍼治療群とコントロール鍼治療との間での疼痛と機能改善度には有意な差が認められなかった。
問題点として、コントロール鍼治療のとり方が一様ではなかったようです。
でも、二つの論文に共通して、鍼を置く場所、鍼の穿刺深度に関係なく治療効果が認めらた点は興味深く思いました。
事実、鍼の穿刺深度は中国鍼、日本鍼そして米国の鍼治療では異なり、操作法にも違いがあります。 また電流流す鍼治療もあります。それぞれ治療効果は充分得られており、治療法による差は大きなものでは無いようです。 この事実は、これらの論文のコントロール鍼の効果を考える上で重要な参考となるように感じます。
結論は、鍼治療の作用機序は現在まだ明らかではないが、鍼治療は変形性膝関節炎患者さんの関節の痛みを軽減し、機能改善に貢献し、QOL改善することから、第一次選択ではないとしても、理学療法と組み合わせて行うことで有効な治療法と考えられます。
補足です。(ここから美夏Dr.)
鍼治療群とは、その患者さんの証や状態に応じて、いわゆる経絡にのっとったツボに経験ある鍼治療師が鍼治療を行ったグループです。コントロール鍼治療群とは、鍼を刺すのですが、その鍼はいわゆるツボからはずしたり、浅くうったりしていて、経絡やツボを無視したグループです。
面白いですね。筑田Dr.がNo.2で主張していたような的確な鍼治療でなくても、針刺し行為そのもので、疼痛や機能改善度が向上するという結果ですよね。経絡やツボそのものが一体何なのか良く分からない部分が多い。今後証や経絡、ツボが西洋医学的な立場から説明できるようになると、この結果も分かりやすくなるのでしょう。反対論者からは、偽薬効果ではないかと反論されそうですけれど、医療は結局患者さんにとって楽になり、助けになることが重要なので、偽薬(プラセーボ)効果もまた効果であると思います。または、針を刺すということそのものの効果も検証する必要があるでしょう。
WOMACは、Western Ontario and McMaster Universities OA indexといって、膝関節症に対して治療効果を判定するスケールです。もし興味のある方はWOMACで検索してみてくださいね